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破片ばっかり。
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ある日、世界が滅んだ。

審判の日の後、世界は荒廃し、かつての文明も消え失せていた。
生命のかけらも見出せないような世界で、空だけが今日もまた明るんでは暮れる。

ただ無為に広がる荒野の中、ひとつだけ過去の遺物と言えるものが
ひっそりとそびえ立っている。

それは、高い高い塔

塔の中には、ひとりの≪姫君≫が囚われていた。
いつからそこにいるのか、また、いつまでそこにいるのか、知る者はいない。
かわいそうな≪姫君≫は、窓から外を眺めては、歌を歌う。

姫君を囚えているのは、ひとりの≪わるいまほうつかい≫
≪姫君≫を愛している≪まほうつかい≫は、塔に魔法をかけ、≪姫君≫を
決して塔の外に出られないようにしている。

≪まほうつかい≫のかけた魔法のおかげで、≪姫君≫は何不自由なく暮らしていた。
望めば出てくるお菓子やお茶。いつの間にか綺麗になっている部屋。

けれど、決して外に出ることだけは叶わない。
どんなに望んでも、扉だけが出てこない。

≪まほうつかい≫は毎夜≪姫君≫の部屋を訪れては、≪姫君≫の心を傷つける。
≪姫君≫が外へ思いを馳せようものなら、「夢見がちなお姫様だ」と小馬鹿にし
否定の言葉を並べることで、≪姫君≫が外に出ようとする気力を奪うのだ。

ただ、≪姫君≫を支配したいがために。

≪姫君≫は、独善的な≪まほうつかい≫の愛を受け入れることが出来ず、
かといって逃げ出すことさえ出来ずに、ただ囚われの身分に甘んじている。

≪姫君≫にとって唯一心安らげるのは、歌を歌っている時だけ。
だから、≪姫君≫は窓の向こうに精一杯歌い続ける。

“僕はここにいるよ”と、見知らぬ誰かへ向けて。

ある日、そんな≪姫君≫のもとへ2人の来訪者が現れる。

ひとりは、崩壊した世界を旅する≪赤の王子≫
彼は世界の崩壊前に繁栄していた『赤の国』の王子だった青年。
国も何もなくなってしまった世界で、生き残っている者を探して旅をしている。
いずれ生き残りを集めて、国を再建し、文明を取り戻そうとしているのだ。

彼は≪姫君≫に、“誰かを想うこと”を教える。

もうひとりの来訪者は、≪羽人の少年≫
彼は、この世界に存在している『羽人(はねびと)』という種族の子供。
『羽人』とは、背に羽を持ち、花の蜜を糧とする森の民である。

世界の崩壊によって森が死に絶え、食糧難に見舞われた一族のために
新天地となる場所を探して、日夜飛び回っている。
もちろん彼もしばらく何も食べておらず、その華奢な体は限界に達しつつある。

彼は≪姫君≫に、“誰かのために生きること”を教える。

入り口もなく、出口もない塔へ訪れた2人の来訪者。
現実的でありながらも非現実なその存在は、毎夜≪姫君≫の歌に導かれ、
塔へと足を運び、≪姫君≫の心の傷を癒しながら、影響を与えていく。

彼らのおかげで、もう一度立ち上がる決意を取り戻した≪姫君≫は
≪わるいまほうつかい≫にひとり向き合う。

そこで彼の口から語られる意味深な言葉。

次第に≪姫君≫の中によみがえる、ある真実。

“かすれた記憶の中にいる、あのひどく優しい≪誰か≫の面影”

心にくすぶる小さな違和感は、≪姫君≫に3つの夢を見せる。

ひとつめの夢は、赤い国の夢。
≪彼≫は昔、『赤い国』の王城に勤めていた魔術師だったらしい。
その国の王子とは幼馴染で、よく写真を見せてくれた。

王子とささいな考え方の行き違いで喧嘩をしてしまい、国を出た≪彼≫は、
この塔を根城にして、孤独に生きる道を選んだのだという。

ふたつめの夢は、緑の森の夢。
≪彼≫はよく、絵本を読んでくれた。
暖炉の薪がはぜる音だけが響くあの部屋で、≪僕≫をひざの上に乗せて。

色んな本を読んでくれたけれど、その中でも一番好きだった『羽人の子供の冒険記』。
まだ子供なのに、風だけを頼りに世界を飛び回る主人公に憧れた。

みっつめの夢は、青い深海の夢。
ある時、≪彼≫は寂しげに笑いながら呟いた。
“私は、この世に生きていても深海で独り眠っているようなものだ”と。

その言葉の真意はわからない。けれど、彼はこうも言った。
“お前がいれば、私は眠りから覚められる気がする。お前さえいてくれれば。”


そして、≪姫君≫はすべてを思い出す。

世界崩壊の前、孤児だった≪姫君≫を受け入れてくれた≪彼≫の存在。

≪彼≫は塔にただひとりで住んでいた。
≪彼≫はとても孤独だった。

けれど、≪彼≫は僕の前では微笑んでくれた。

あの日。世界が崩壊した日。
誰よりも先に世界の異変を察した≪彼≫は、僕にこう言った。

“いいかい、絶対にこの塔から出てはいけないよ。”

それから≪彼≫はこの塔に魔法をかけた。
塔に住む者の望みを何でも叶える魔法。
・・・子供がひとりで残されても、生きていけるように。

そして≪彼≫はこの塔を世界の終焉から守るために外に飛び出して行き・・・

二度と戻らなかった。


夢から醒めた≪姫君≫の頬に、涙が伝う。


最愛の≪彼≫を失った衝撃で、何もかもが逆転してしまっていたのだ。
たったひとりで過ごす、永い永い時間の中で、
≪彼≫を失ったことを認められず、≪彼≫は生きていると思い込んだ。

塔から出ないのは、彼との約束があるから。
でも、彼はもういない。僕を守るために死んでしまった。

いや、違う。彼は生きてる。
生きて、僕を閉じ込めているんだ。
だから僕はここから出られない。

彼がいなくなるくらいなら、むしろそうであってほしい

その歪んだ願いを、塔は叶えてしまった。

幻影として塔が作り出した≪まほうつかい≫は、望みどおり≪姫君≫を
塔に拘束し、歪んだ愛情で縛り付けた。

真実と相反する“呪縛”に板ばさみになっていくうちに、いつしか優しかった≪彼≫は、
独善的な愛で≪姫君≫を閉じ込める≪わるいまほうつかい≫に・・・。

すべては、空想とそのつじつま合わせ。

それでも≪赤の王子≫と≪羽人の少年≫が塔に現れたのは、
≪姫君≫の心に残る、「真実を受け入れなければいけない」という想いの反映。

長い時間を経て、やっと≪姫君≫は≪彼≫の死を受けれいることができた。

真実を取り戻した≪姫君≫は、自分の弱さが作り出した≪彼≫の幻影と
再び向かい合う。

ありがとう、そして、さようなら。

≪歌の塔≫は、≪姫君≫の真の願いを聞き届ける。
≪わるいまほうつかい≫は消え、そのかわりに扉が現れる。

もはや≪姫君≫ではなくなった≪僕≫は、強い心を胸に抱き、
その扉から外の世界へと踏み出す。

------------------

荒廃した世界では、生き残りの民がいくつかのコミュニティを作り
人としての営みを再び築き始めていた。

新しく始まった世界に、清浄な風がふく。
その風に乗って、今日も美しい歌声が世界を包んでいた。

あれから≪僕≫は、生き残りの人々の再建した村を訪れては、
歌を歌って人々を鼓舞するという生活をしている。

それしか取り得のない≪僕≫だけど、それでもほんの僅かでも
誰かのためになることをしようと思った。
≪彼≫が命をかけて救ってくれた命なのだから。

ある時、訪れた村で、≪僕≫はありえないものを目にする。

その村を再建するリーダー格のおじさんが持っていた、懐中時計。
それはまさしく、≪彼≫の遺品だった。

懐中時計のゆえんを訊ねる≪僕≫に、おじさんは事も無げに言う。

「かなり前に、そこの川を流れてきたどざえもんがいてな・・・」

ああ・・・。やっぱり彼は死んでいた・・・。
わかってはいても、突きつけられた事実に胸が苦しくなる。

そんな僕の様子に気づかず、おじさんは続けた。

「引き上げてみたら、息があったのよう。」

・・・え?

「何日か介抱したら目を覚ましてね。ひどい怪我をしてたから、
しばらくここにいるように言ったら、これを礼だと言ってくれたんだがね。」

生き・・・てた?

「その人は、今どこに・・・!?」

「え?ああ、今もここにいるよ。ほら、あそこに高台が見えるだろう?
この時間は、いつもあのあたりから遠くを見とるよ。」

「遠くを・・・?」

「何でも、そこから昔住んでたあたりが見えるんだと。
戻れないから、せめてそこから見守ってるらしい。」

「戻れないって、何で・・・!?」

「うーん・・・会えばわかると思うが・・・。」

お礼もそこそこに、≪僕≫は駆け出す。


高台に向かう緩やかな丘を駆け上がると、人影が見えた。
こちらに背を向けているけれど、あれは・・・。

いつのまにか涙があふれ、呼吸が苦しい。

髪が伸びてる。それから・・・。

背の高い後姿には、あるべきものがなかった。
右腕のそでが、風にはためいている。
その薄い質感は、その中にあるはずのものがないことを物語っていた。

左手には、杖が。
魔力を行使するためのものではない、ただ体を支えるだけの木の棒。
それに体重をかけなれければ、立つことさえままならないのだろう。

色んなものを、失ったんだ。
それでも。それでも・・・。

生きててくれた・・・。

「・・・・・・・っ・・・!!」

声にならない叫びが、喉の奥からあふれ出す。

≪僕≫の気配に気づいたのか、≪彼≫は静かに振り向いた。


そこにあったのは、かつてと変わらない穏やかな笑顔。


「          」


≪彼≫が、≪僕≫の名を呼ぶ。

がむしゃらに抱きついて泣きじゃくる≪僕≫と、
バランスを崩して倒れこみ、苦笑する≪彼≫の傍を

優しい風が一陣、通り抜けていった。

 


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